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名古屋高等裁判所 昭和25年(う)1574号 判決

被告人

飯田馨

外二名

主文

原判決を破棄する。

被告人飯田馨を懲役一年六月に処する

被告人松岡作治を懲役八月及び罰金五千円に処する。

右罰金を完納しないときは金二百円を一日に換算した期間被告人松岡作治を労役場に留置する。

原審に於ける訴訟費用(国選弁護人支給分)は被告人松岡作治の負担とする。

事実

一、被告人飯田馨は昭和二十一年十二月二十七日岐阜区裁判所に於て窃盜罪により懲役一年六月に、同二十三年七月十二日岐阜簡易裁判所に於て窃盜罪により懲役一年に各処せられ、当時何れもその刑の執行を受け終つたものであるが、昭和二十四年十二月五日頃原審相被告人森山実及び豊田某と共謀の上、岐阜市端詰町七番地第一実業株式会社に於て同会社保管の紡毛生地五十米巻三本、ボストンバツク一個外衣類九点を窃取し、

二、被告人松岡作治は昭和二十四年十二月三十一日岐阜地方裁判所に於て、賍物寄蔵罪により懲役六月、二年間執行猶予の判決を受けたものであるが、該判決確定前たる昭和二十四年十二月五日頃相被告人飯田馨に依頼せられ、同人等が窃取した前記紡毛糸五十米巻一本を賍物たるの情を知りながら肩書自宅に於て之を保管し、以て賍物の寄蔵を為し、

たものである。

証拠

一、原審第一回公判調書中被告人等の各供述記載

二、被告人飯田馨に対する司法警察員作成の第二回供述調書

三、同人に対する検察事務官作成の供述調書

四、被告人松岡作治に対する司法警察員作成の第二回供述調書

五、同人の検察事務官に対する供述調書

六、森山実に対する司法警察員作成の第二回供述調書

七、松久茂夫の盜難届

八、被告人等に対する各前科調書

を綜合して判示事実を認定する。

適條

一、被告人飯田馨に対し

刑法第二百三十五條、第五十六條、第五十七條、第五十九條

二、被告人松岡作治に対し

刑法第二百五十六條第二項、第四十五條後段、第五十條、第十八條、罰金等臨時措置法第二條、第三條

刑事訴訟法第四百四條、第百八十一條

依つて主文の通り判決する。

理由

職権を以て調査するに、原審は被告人等の有罪を認定した証拠として、同人等の原審公廷に於ける供述のみを挙示してあるから此点に就き考察するに、凡そ共同被告人の供述は互に傍証となり得る性質を有するが、しかし之を傍証として採用し得る場合は該供述(自白)が具体的事実に対するものであつて、その真実性を確認し得る程度のものでなければ未だ以て充分とすることができないものである。蓋し被告人である場合は第三者と異なり種々復雑な利害関係を有することを常とすることから、その信憑力も第三者に比し、幾分劣るものと看なければならないからである。これを本件に就て看ると、原審公判調書を通じ、被告人等の供述中犯罪事実に関するものは、単に検察官の起訴状の朗読に対して、之を認める旨の供述(自認)があるに止まり、未だ以て具体的事実に対する供述(自白)と看ることができない性質のものであるから、これを採つて直ちに傍証として引用することは不完全な証拠によつて犯罪事実を認定したとの謗りあるを免れない。これを刑事訴訟法第三百十九條第二項に照すと、同項の規定は被告人の自白の危険性を強調するものであるから、この趣旨からいえば共同被告人である以上、その供述が他の被告人の自白に対する傍証となることはあり得ない性質のものであるが、しかし一面に於て被告人の供述と同旨の供述が他の被告人に於てもなされる以上、それ等の供述を綜合して真実に近いものと認め得ることができるから、この程度に於て互に傍証となり得るに過ぎない。従つてその供述を傍証として引用する場合は可及的真実に近いと認められ得るもの即ち具体的事実に対する供述と解するを相当とする。この事は一般傍証の性質(具体的事実に対する供述又は記載)と対比するも明である。然らば起訴状の記載は具体的事実では無いかというに刑事訴訟法第二百九十六條(冐頭陳述)の性質と比較するに、起訴状の記載は事実の結論であつて、具体的事実ではないと看るべきものである。従つて起訴状の記載に対する答弁(自認)のみを捉えて直ちに傍証として引用することは結局に於て刑事訴訟法第三百十九條第二項に違反するものといわなければならない。次に原審は被告人松岡作治に就て、判決確定前の事実を認定しながら刑法第四十五條後段を適用せず、また同人の一回の賍物寄蔵の所為に対し、罰金等臨時措置法を適用せずして罰金五千円の刑を科したのは何れも法律の適用を誤つたものであつて、右の中被告人等の自認のみを挙示して有罪の認定をした部分は被告人に共通の点であるから結局に於て原判決は全面的に破棄を免れない。

依つて刑事訴訟法第三百九十七條に則り原判決を破棄するが、本件は既に取調べた証拠により当審に於て直ちに判決をなし得るものと認めるから同法第四百條但書に従い次の通り判決する。

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